恋の五色菫

宝塚の新しい観劇のしかたをご提案中!

人生は周り巡る輪舞曲~グランドホテル~

グランドホテル

2016年珠城りょうさん・愛希れいかさん主演で月組にて公演。

1928年のベルリンを舞台に、高級ホテルを訪れた人々が一日半のうちに繰り広げる様々な人生模様を描いたミュージカル。


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元々ブロードウェイミュージカル作品で、過去にグラミー賞を受賞したこともある名作。

『グランドホテル形式』という言葉の基になっている作品で、誰が主役でもおかしくなく、どこを切り取ってもお話が出来るような作品のことを言うそう。

有名なところで、映画の『有頂天ホテル』などもこの形式が当てはまるだろうか。

 

宝塚では2度上演されており、1度目は涼風真世さんが、2度目は珠城りょうさんが主演で公演。

版権が厳しいのか、涼風さんの公演の資料はほとんど残っていないのが悔やまれる。

 

宝塚版グランドホテルで演出にあたったのは、岡田敬二先生・生田大和先生ではあるが、

ブロードウェイのオリジナル演出をされていた、トミーチューン氏の演出を宝塚版にアレンジしたものとなる。

 

今回この作品を選んだ理由は、“ 床機構が全くうごかないから”だ。

(床機構はせり舞台や盆のこと)

前回はたくさん舞台機構の転換がある作品を紹介したので、逆に全く動かないものにしてみた。

 

もちろん場面や場所が変わるが、すべて出演者とイスだけで表現するという特種な演出だ。


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下に升目のような床になっているのが分かるだろうか。

出演者はこの升目に沿って、イスを動かしたり、柱を動かしたりなどして、ホテルのロビーや、客室などに転換していく。

バレエの劇場にまでなったときは驚いた。


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文字にすると、なんと地味な作品と思われるかもしれないが、観ている本人は舞台機構が動かないことすらまったく気づかなかった。

最後に銀橋を珠城さんが歩いたときにやっと気づいたほどだった。

 

そもそも床全面にこのように何かが敷かれているのはめずらしい。全く舞台機構を使わない!としなければ出来ないことである。

 

演出の中に、出演者が舞台上の隅にある長椅子にずっとすわっている、というのがある。

彼らは、芝居とは関係なく、セリフを発することもない。グランドホテルにくるさまざまな人生を傍観しているように見えるし、自分の番が来るのを待っているようにも見える。

正直この演出は私にはちょっと難しすぎて十分理解ができていないので、どなたか教えて欲しい。

 

時代は第一次世界大戦後のベルリンが舞台で、かなり疲弊している。

いろんな人生や感情が渦巻いて混沌としていて、いわゆるデカダンスな雰囲気という感じ。

宝塚が得意とする華やかさや、きらびやかな世界とはちがう。

さらに宝塚の武器である、スピーディーでエキサイティングな舞台転換を削ぎ落としてしまった。

 

それでも宝塚はこれをやってのけて、宝塚のものにしてしまう。許容量、懐の広さに驚いた作品でもあった。

 

上演される前から今後宝塚では観れないかもしれないとまわりから言われ触発され、何度か観にいった作品だったが、観てよかったといえる作品だった。

 

またそんな作品に出会いたい。